今週頭から始まった研修旅行、東京を皮切りに名古屋、大宮、宇都宮、秋田と無事終えて、久しぶりに帰京した。行く先々で元の部下やら同僚達との宴会続きで、東京に戻った時にはカミさんのサイフをあてにして夕飯に誘い出すハメになったほどの貧乏出張となった。すってんてんとはこの事である。
埼玉県の大宮での事。かつて頻繁に出入りしていた小さなスナックがあった。その日は、かつて日本酒修行をしていた店で久しぶりにすばらしい吟醸酒との出会いを味わった勢いも手伝って、帰り道ついでに約3年ぶりに立ち寄ってみた。以前は、店長とママ、そして若めの女性が2〜3人位いたのだが、今日はなんと着物姿の四十代とおぼしきオバさん(失礼)がいた。
「どうしたの、店長。宗旨替えでもしたの?」
「いやぁ、彼女はちょっとばかり有名どころなんだよ」
「へぇ、そう。でも、ずいぶんとストライクゾーン広がったんじゃないの?」
などと話していたら、件の彼女が私の席へ来た。
話すうちに昔つきあいで1〜2度行った事のある、同じ大宮にあったゲイバーのママだったとわかった。店が閉店してしまったため、ここへ勤めるようになったと言う。もちろん私は彼女の顔など覚えてはいない。
「どこかで見た顔だと思ってたわ」
「まさか、ゲイバーでもないこの店に勤めてるとは思わなかったよ。あの頃は会社の若いヤツが危うくクドかれそうになってたしね」
そうこうしているうちに、話題はいつしか私のゲイバー初体験の昔話になっていった。20年程前の若かりし頃、会社の先輩に何度か連れて行かれた時の話である。
「池袋と新宿の小さな店に、アイドル顔負けのかわいいおカマがいてさぁ。なんと彼女、上智大出身だったんだよ。ゲイバーといえば、その彼女の顔だけが美しい思い出だったな」
しばし沈黙。次の瞬間、
「それ、私だよ」
「ええええぇぇぇぇ!!!」
「だって、話の時系列が私とまったく同じだもの」
なんという偶然だろう! そもそも大宮の店に行ってた時にはこんな昔話などしていない。する必要も無かった。だって、20年も昔の都内のゲイバーの事なんて、大宮では別世界の事だと思ってたし。
これも偶然がもたらした出来事だったのだろうが、どう見ても目の前の彼女にその時の面影は見つからなかった。お互い、過ぎ去りし時間の長さに浸るのみであった。