研修出張ツアーも前半戦がひとまず終了。静岡、大阪、高松を消化して帰京した。仕事の内容はともかく、出張先の晩飯について途中経過を報告したい。
まずは前泊した静岡の晩。同僚の紹介で駅から徒歩5分程度のちょっとコジャレた居酒屋へ行った。大衆居酒屋よりも上品で、かと言って料理屋という風でもない、我々の年代が好む「チョイ上居酒屋」といった店だった。
入店が午後8時過ぎだった事もあり、生白魚や大好物の塩辛は売り切れ。しかたなく刺身や白子などを注文。だが同僚の言ってた通りネタはいい。〆に頼んだ旬の桜海老かき揚も美味だった。そんなワケで食べ物には概ね満足できた。
だが、酒が高い。私は常々日本酒を飲む際、その店での価格を「プレミア無しの常識価格」か「プレミア付の非常識価格」かを判断して注文する事にしている。プレミアには2種類あり、売値の段階で店がプレミアを付けている場合と仕入れの段階でプレミアが付いてしまっている場合とがある。
いずれであれ、売値にはその店の誠意と仕入れの実力が出る。ここではそれがいささか高め寄りだった。常識価格600〜750円と思われる静岡地酒「磯自慢」「正雪」の純米酒が軒並み850円以上、人気の十四代の本丸(山形)に至っては1300円であった。代々木駅近くのいつもの店なら750円なのに!
いくら品揃えが豊富でも、売値が非常識価格だったら気持ちよく注文する気にはなれない。とは言え刺身を前にしていたので、飛露喜(福島)を一杯だけ注文し、後は焼酎ロックにした。
続いて、はからずも1月に伝説を作ってしまった高松。大阪からの移動だったので到着したのは午後9時過ぎだった。チェックインした全日空ホテルの周りの数少ない店がすべて満席だったため、伝説の地となったワシントンプラザ付近、瓦町の居酒屋横丁まで出た。その入口で目にとまったごく普通の居酒屋へ。
壁の焼き鳥メニューには「なんこつ」の文字が。実は私はなんこつ焼が大好物である。ただしそれは通称「げんこつ」と呼ばれる膝軟骨だった場合である。あのカリコリとした歯応えと油分と共に浸み出すウマミがたまらない。焼き鳥系のツマミはこれさえあれば他はいらないと言ってもいい。いつも10本以上平気で平らげる。だから注文前に期待を込めて必ず確かめるのである。
「おたくのなんこつは、丸いやつ? それとも三角?」
三角形の白い軟骨は通称「やげん」と呼ばれる胸軟骨で、東京の焼き鳥屋では圧倒的多くの店がこれを「なんこつ」としているが、味も素っ気もない代物なのだ。当たり前のように「三角形のやつです」と返され、幾度ガッカリしてきた事か。たまに小ぶりのげんこつを唐揚げで出す店はあるが、あれは油まみれでよろしくない。ちゃんとした大きさのものを串に刺して焼いている店は稀で、そういう貴重な店は必ず記憶しておくほどである。
「ああ、なんこつは普通の丸っこいやつですよ」
店の主人からその言葉を聞いた私のどんなに嬉しかった事か! しかも「げんこつ」を普通のなんこつだと言うではないか! 高松の大衆居酒屋恐るべし! 時間さえ許せば20本は味わいたかったが、5本食べた時点で午後10時半を回ってしまっていた。明日の研修のため早々に切り上げざるを得なかったのが唯一心残りだった。次回は真っ先にここへ来よう。
でも1月の高松伝説のリベンジは果たせた。おつりが来るくらいに。