海月玲二

今回の旅行の行き先はキューバである.さて,今年中にもアメリカ−キューバ間の飛行機が運行をはじめるという話であるが,今のところはまだであって(だから今のうちに行っておいた,というのはある),日本からの主な便はカナダ経由かメキシコ経由となる.今回はカナダのトロント経由にしてみた.

さらに,今回はトロントで一泊する必要があった.航空券を買った時点で,一泊する便のほうが同日接続より安かったからだ.トロントは物価の高い町だが,一泊分の宿泊費を考慮に入れても安かった.貧民としては選ばない手はない.booking.comとかそういうサイトを使えば,トロントでも5000円台ぐらいで泊まれないこともないのだ.もちろん食事などはしないのだ.というかダウンタウンまで行かないのだ.

トロント空港周辺ホテルには,無料の空港送迎サービスつきのホテルがけっこうあってありがたい.今回みたいに,暑いところに行くのにトロントは雪景色,なんて場合もよくあるし.でもホテル→空港はフロントとかで頼めばいいけど空港→ホテルはどうするのかな,と思いながら到着したら,トロント空港の到着ロビーには「周辺のホテルに無料で電話できる端末」というのが設置してあった.よくできている.宿泊料をカードで払えば,カナダドルを全く用意しなくても大丈夫だ.


キューバ中部,トリニダ周辺の地域.いわゆる砂糖黍プランテーションの跡地である.まあそのそんな大したものが残ってるわけではなくて,見どころは主に農園主の屋敷とか監視塔(奴隷が逃げないように見はってたやつ)ぐらいである.

むしろ観光客が来るのは,ここに来る交通手段が「観光用列車」とか「馬」とかそういうアレで,交通手段自体がアトラクションだからだと考えたほうがよい.なお観光用列車は,もともとみんな大好き蒸気機関車だったのだが,残念ながら故障中らしい.俺が乗った列車はディーゼル機関車だった.しかもディーゼル機関車のほうもだいぶ状態が怪しく,前日にトリニダの旅行会社で「観光列車のスケジュールとかわかりませんか,あと切符買ったりできませんか」と聞いたら「ちゃんと動くかわからないし,当日に直接駅に行ったほうがいいんじゃない」と追い返される始末であった.

まあそれでも俺が行ったときはちゃんと動いたので,車窓からの風景とか見ながら楽しんだわけだ.観光列車の終点は邸宅跡で,ここで希望者は食事したりもできる.希望してみたところ,これがけっこう出てくるのが遅くて,停車時間内に食べきるのに必死だった.邸宅跡自体は見てるヒマがなかったぐらいである.素朴な料理ながら味は悪くないんだけども.

あと俺は運動神経がアレなので,乗馬というのは選択肢外である.予算もかかるし.


ここは,植民地時代のかたちをとどめた町並み自体が世界遺産であり,観光客比率は非常に高い.昔の町並みが,地域の衰退によってそのまま保全されたという点を考えても,シギショアラ(ルーマニア)と似たようなタイプの町だ.でも,こっちは中心部にも住民の生活がないわけではなく,住民が主に利用する商店や軽食スタンドなどもたまに存在している.もちろん,ちょっと周辺部に行くと一気に観光客は減る.今も生きた古い町並みを見たいという向きは,やはりそっちを散策するのがよいだろう.

広い町ではぜんぜんないのだが,特に最初は,どうも道を歩いてて迷いやすいように思った.たぶん,この町は町並みの統一感が強いことと,小さな地方都市なので目立った商店やらランドマーク的建物やらが少ないことで,どの通りも似たような印象になるからだと思う.さらに,ラテンアメリカにありがちな碁盤目の道ではないので,ますます迷いやすい.日差しを遮る高い建物が少ないこと,けっこう坂が多いことで,迷ってると意外に体力を消耗するのだった.

ところで,トリニダは裏に山があり,頂上にある電波塔のあたりまで登ると,それなりに眺めがよい.30分程度のちょっとしたハイキングである.なお,トリニダ市街よりはインヘニオス渓谷のほうがよく見える.トリニダ市街の方向は木が多いんだよね.

俺が登ったときは,電波塔のところに着くと男が現れ,ちょうど疲れたところでペットボトルの水を割高な値段で売ってくれた.ははは.その後,施設のはじっこの小屋の屋根に登らせてくれて,眺めを堪能することができたのだが,はたして彼から水を買わなくても登らせてくれたのだろうか,とかは思わないでもない.


トリニダの近くの町だ.中規模の地方都市であり,わりと静かな町である.夜になると,開いてるお店も少ないし,そもそも明かり自体が少ない.でもときどき道端で人が涼んでいるのでちょっと驚く.

なお,町の名前は英語にすれば「ハンドレッド・ファイヤー」である.なんかの技っぽい.しかもこの名前,もともと人名だというところも面白いと思う.どういう由来の苗字なんだ.

ここはキューバでは珍しいフランスが基礎を築いた町で,建物のかざりとかの雰囲気が若干ほかの町と違っている.もちろん現在は,目立つ通りや広場周辺以外,残念な状態の建物のほうが多いけど.ツアーの場合は,トリニダに行く途中でちょっと寄って,世界遺産になってる中央広場周辺だけ見物して行くようだ.

碁盤目構造で,中心部には広場があり,あまり迷うようなところではない.ちょっと特徴的なのは,一本だけ異様に長い通りがあることだ.市街中心部のメインストリートが,どんどん進んで行くと途中から海岸通りになり,最終的に海に突き出した岬のあたりで終点となる.中心部から終点まで3キロ近くあり,反タクシー派には若干つらい距離である.ていうかじゃあバス乗れよ.

そして岬の先端は公園になっている.海岸通りからこの公園まで,特に夕刻などいかにもカップル御用達の雰囲気である.しかし俺としては,我々非リア充組にも,このようなところを自由に闊歩する権利があるのだと申し上げたい.わざわざ無意味に一人で岬のベンチに座り,海を眺めてきたのだった.

当日記はぼっち充生活を常に応援しています.


世界的に名高いビーチリゾートであるバラデロの,最寄りの町である.観光客的には,バラデロには行ってもこっちにはあまり来ない感じ.でもそのぶん,ふつうのキューバの町の生活が垣間見えていいよ.広場にでかい遊具が設置されてて子供がいつも遊んでるとか,中心街の本屋に市民が行列してるとか.

地元の人で賑わうレストランで夕食を食べていたら,なんか全然知らないじいさんが突然隣に座ってきて,なんかどうでもいいことを喋ったあげく「ビール一杯おごってくれ」とか言い出した.いわゆるタカりである.でも,バラデロならともかく,この町には外国人観光客とかそもそもあんまりいないんだけど,普段どうしてるんだろう.いずれにせよ,英語がいまいち通じないフリをしていたら,そのうちあきらめてしまった.

夕食のあと,なんとなく一杯飲みたくなってバーに入ったら,ちゃんとウェルカムドリンクとかナッツとか出てきて超びびった.うーむこれは外人向けクオリティの店というわけなんだろうか.でもこの町には観光客とかあまり(略).あとでお勘定を見たら,頼んだカクテルの値段しかついてなくてまたびっくりした.なんか席チャージとかそういうのあるかと思った.多少チップはつけたが,そういうものだったかどうかも不明である.なにしろ,俺がいた一時間近くの間,ほかに誰も客がいなかったからね!涼しい部屋でのんびり日記書いたりできたよ!

ところで,ここに来たのは,いつもの「別に観光地じゃない町に一泊してみよう」の一環とも言えるわけだが,それだけでもない.ここからハバナまで,古い電気鉄道が走っているというので乗りにきたのだ.


ハバナとマタンサス間を3時間半程度で結ぶ小さな鉄道で,キューバ唯一の電気鉄道だ.もともとハーシー(チョコレートで有名な会社)が砂糖農園を経営してたころ,輸送のために作った鉄道らしい.もう何十年も前の話であり,ハーシー社は撤退して久しい.キューバ政府は慢性的に物資も予算も不足しているので,現在ではそうとうボロくなった鉄道だ.ネットで少々旅行記など探してみると,「この鉄道に乗ってみようと思って行ってみたものの,故障中であきらめた」などという記述もけっこう見つかった.俺が今回行ってみて,ちゃんと予定通り運行していたというのは,単に幸運だったのかもしれない.

実際,ハバナまでかかった時間はほぼ予定の時刻表通りだった.これには少々驚いた.俺の向かいに座ったカナダ人氏と話をしていたら,彼もタクシー運転手に「え,あの電車で行くの? 5時間はかかるよ?」とか脅されていたらしい.たまたま修理直後で調子がよかった,とかかしらん.見た目ボロくて振動もアレだけど,すぐ止まるとか異常に遅いとか,そういうことはなかったのだ.

というか,沿線住民にとってはそれなりに貴重な交通手段らしく,けっこう混んでいた.何かの荷物を運んでる人や,小鳥だとかヤギだとかを運んでる人もいた(「動物は禁止」とか書いてある気がするんだけど).通学に使ってるらしい,制服の子までいた.朝と昼と夕方に一本ずつあるので,一応通学可能であるとは思うけど,壊れて運休になったらどうするんだろう.

ちなみに,ハバナ−マタンサス間はバスなら2時間かからないだろう.まあアレだ,カナダ人氏も言っていたが,リッチなはずの観光客がなぜわざわざこういうのに乗るのか,現地の人に説明するのはとても難しいのだった.ほかにも物好きな観光客が何人か乗っていたけど.


2016-03-15(火)

ハバナ

キューバの首都であり,高層建築も多い巨大都市であるが,ほかの町と同様に建物はかなりギリギリである.4階建てのビルなのに壁が一部ないとか,だいぶヤバいかんじ.旧市街でも,観光客のあまり来ない通りでは,一見建物かと思ったら外壁しか残ってなかった,とか普通にある.しかも別にゴーストタウン化してるとか住民はあまり出歩かないとかそういうことはなくて,大都市として普通に機能はしているのだ.夜になると明かりのなくなる通りも多いけど,別におちおち歩けないとかいうほどの雰囲気ではないし(むしろ雰囲気は平和である),普通に住人が暗い中で談笑してたりする.崩壊寸前の建物に人が住んでたり,商店があったりもする.

新市街には,キューバでは数少ないショッピングモール的なものすら存在する.もちろん運営は政府だと思われ,「ショッピングモールなのに広告がほとんどない」という変わった代物である.ちょっと感心したのは,このモールは中央部が完全に上まで吹き抜けで,その周囲に螺旋状に通路が作られていることだ.このことにより,エレベーターやエスカレーターを作るコスト・動かす電気代やメンテナンス費用を節約でき,なおかつ階段だけではつらい人でも買い物を楽しむことが可能となるのだ.

実際,今後経済制裁が解除されていくと町の風景も変わっていくのだろうか.

ところで,ハバナの市バスは,ただでさえ系統が多くてわかりにくいのに加え,どうも不可解な動きをすることがある.空港近辺から新市街に向かうにはP16番に乗るとよいはずだが,どういうわけか旧市街近くに(違う行き先に)向かうようだったのであわてて途中で降り,道に迷って無駄に苦労した.あるいは,郊外に行った帰りに,来たときと同じP11番のバスに乗ったはずなのにちっとも戻っていかず,郊外の住宅地を何度も巡回したあげく,運転手に下ろされて「次に来るやつを待ってろ」とか言われたりとか.次に来たやつは,番号は同じなのに,確かに中心部に戻って行った.うーむ何か俺の知らないルールがあるようだ.

あと重要なターミナルであるParque Fraternidadのバス停が,広大な公園のあちこちに分散していて非常にわかりにくいのはなんとかしてほしい.四条河原町か.実は,一度行ってみたけど,30分あちこちうろうろしたあげくに目的のバスの乗り場がわからず諦めてしまったことは秘密だ.そのへんの人に聞いたらよかった.


キューバの通貨は,「兌換ペソ」CUCと「キューバペソ」CUPの二種類あり,ややこしいことで有名だ.超雑に言うと,CUCが対外用でCUPが地元用だ.輸入品とか工業製品とかはCUCを使わないと手に入らない場合があり,レストランやホテル等でもCUCしか使えないところがある.どうも,

  • 工業製品等がひどく不足しているので,市民がおいそれと買えなくするため
  • 外国人料金を取りやすくするため

といった理由でこのような面倒な制度になっているようだ.ひとつめの点については,CUCはCUPの25倍の価値があり,市民は基本的に給料(というのが妥当か知らないが)をCUPで受けとることになっているため,CUC商品を買うにはかなり貯めないといけなくなっている,ということらしい.ふたつめについては,つまり,たとえば入場料なんかが「外国人1CUC,キューバ人1CUP」など,同じ額面で通貨を変えてあるパターンが多い.

さて,観光客的に誤解しやすい点だが,別に外国人でもCUPを使うことは可能だ.両替所で普通に手に入るし,値段がCUPだけでついている場合CUP払いしても何も問題はないのだ.CUPで売っているものはだいたい激安で,たとえば小さいチーズピザが6CUP(30円弱)だった.激安なのは社会主義国だからで,つまり外国人が買うのはいわゆるフリーライド行為であるのは間違いない.しかし,別に禁止されているわけでもない.だいたい,外国人観光客をあまり想定していないところでは外国人価格を設定していないのである.本屋とか,青果市場とか,路地裏の軽食スタンドとか,市バスとか.これが制度の不備なのか,こんなところに来る外国人は少数だから知ってて放置しているのか,そのへんはわからない.また,CUP払いのものを,相当するCUCで払うことも可能である.たとえば,俺は25CUPの本を買い,1CUCのコインを出したところ何も問題なく売ってもらえた(逆が可能かどうかは微妙である).

というわけで,外国人観光客にとってはこの二重通貨制度は「めんどうくさいし,慣れないと間違いやすい」という以上のものではない.なにか行動が制限されるようなたぐいのものではないのだ.「キューバ人は2CUPなのに俺は2CUC払わされた」みたいなことは,単に外国人料金の問題であって,二重通貨制度そのものの問題ではない.そもそも,この二重通貨制度はいずれ廃止する,ということになってはいるらしいので,だんだん制限を無くしていっている途中なのかもしれない.来年,再来年に見たらまた状況が変わっているかな.

ていうか,いろいろ言ってみたけど,買える商品にそんなに選択肢はないけどね.しかも,社会主義的に考えて,どこで買っても値段はほぼ同じだ.市街でいろんな店をチェックしてもさほど意味はない.商品に直接消費税はかかってないので,空港のゲート後ですら,同じものなら値段は一緒である."Duty Free Shop"って何のDutyだよ.

キューバ料理そのものには,まあ特筆すべきことはあまりない.なお農産物はそこそこ豊富なので,味は別に悪くはない.単に,いろいろと凝った料理をする伝統に乏しいだけである.

特筆すべきなのは食事する場所だ.観光客が食事できる場所は大きくわけて二通りあって,「外人観光客向けレストラン」と「キューバ人用軽食スタンド」である.と言っても外人向けレストランのほうはまあ,だいたい予想通りであり,これも特筆すべきことはない.たまに気のきいた料理を食べたくなったり,野菜とかちゃんと食べたくなったときに行けばよい.

軽食スタンドというのは,あまりほかの国と似ていない,独特のスタイルだと思う.おおむね,通りに面した建物の窓の横にメニューが貼ってある形をとる.窓からほしい物を注文して,その場で食べたり持って帰ったりするのだ.支払いは基本的にCUPである.なお,CUP払いの食事処でも,ちゃんと店内に椅子があって,座って食事できるレストラン形式の場合もたまにある.こういうときは,ちゃんと皿に盛った肉やライスやサラダ的なものを食べられる場合が多い.また,ハバナなどでは,CUPとCUCどちらでも受けつける,観光客向けとの中間ぐらいのレストランも存在する.いずれにせよ,試しに一回ぐらいは観光客向けでないところで食べてみると面白いと思う.安いし.宿泊についても「キューバ旅行の際には,民泊をしてみると地元の生活に少し触れられていいよ」という話があったりするね.

スタンド豆知識

  • スペイン語で"jugo"はジュースだが(「フーゴ」と発音する),これは果物のジュースだけを指し,コーラのようなものは"refresco"と呼ばれる.
  • ジュースは果物が選べる場合がある.ひとつしかない場合も多い.
  • "cafe"はコーヒーだが,ふつうはエスプレッソだ.
  • "pan c/なんとか"はだいたいサンドイッチ的なものだ."c/"は"con"の略であり,英語で言うところの"with"である.
  • 値段で「食べ物か飲み物か」は見当がつく.
  • よくわからなかったら,ピザはわりと無難.
  • まれにヨーグルトを置いてる店がある.朝食にどうぞ.

あともうひとつ別の話.ラム酒はキューバの名産のひとつであり,どこでも安価で手に入る.結果的に,キューバはカクテル天国である.外国人価格だと一杯350〜500円程度で(というか,カクテルはCUC払いの店に行かないとほぼ出てこない),だいたいうまいし種類も豊富だ.俺もふだんはカクテルなど飲まないのだが,せっかくだからダイキリとかモヒートとか頼みまくった.同じカクテルでも,店によってけっこう味付けが違ったりするのも面白い.ただ,キューバのカクテルがうまいのは,「ちゃんとしたラムをしっかり使ってるから」という面もあり,つまり,けっこう強いのだ.俺のような軟弱者は一杯か二杯が限度であり,残念なことであった.