海月玲二

今回の旅行はヨーロッパなのだが,タイ航空が安かったのでバンコク乗り継ぎである.

あんまりやったことないのだが,バンコクでの待ち時間が9時間ある便にして,待ち時間に入国してみることにした(この便がちょっとだけ安かったのもある).スワンナブーム空港の場合,空港鉄道を使うと30分で安価に市内に出られるので,乗り継ぎ入国にも向いている.混んでるけど.注意点としては,入国カードに入国目的はトランジットであると明記しておくことぐらいだ.最近は入国カードに宿泊先を書いてないと問題になるらしく,入国審査の列の前でわざわざ係員が確認しているほどだが,トランジットだということなら空欄でも何も言われなかった.

まあ9時間と言っても全部使えるわけでもないので,そんなたいしたことはしてないが,デパートのフードコートとかオサレ喫茶店とか行ってのんびりした.デパートにLOFTだの無印良品だのが入ってるのを眺めたりとか.

ところで,最近我が家ではドライ生姜がブームなのだが,どうもバンコクのおみやげ屋だとドライフルーツコーナーにあまり売ってないな.ドライマンゴーばっかりだ.空港には少し売ってたけど.



今回のスタート地点はポーランドだ.

あとから考えると,この町はお手本のような観光地だった.実際のところ,グダンスク中心部の中世風の町並みはほぼすべて再建したものである.それにもかかわらず観光客はわんさか来ているのだ.しかも観光だけじゃなくて港湾船舶業などもそれなりにやってるというからすごい.

観光客がいるのはほぼ中心の旧市街である.その周辺にもグダンスク市域はあるのだが,中心から離れたあたりは地図を見てるだけでも「昔は別の町だったんだろうなあ」という雰囲気である.散歩するぶんには,いかにも観光名所してなくて歩きやすいし,こっちはこっちでけっこうおすすめである.なんかすごいパイプオルガンがある教会とか,展望フロアのある高層ビルとか,ちょっと時代の違う町並みとか,海水浴場のある海沿いとか,それなりに見所もある.

すごいパイプオルガンは,俺が到着した直後にたまたま演奏会が始まってラッキーだった.けっこういろんな音楽をやってくれるので面白い.まあ,俺のような音楽の素養がない者が聴いても「面白い」ぐらいしかわかんなくて,せいぜいゲームのBGMを連想したりCM曲を思い出したりする程度だが.あとここのパイプオルガンは,なんか「飾りが動く」という変わった特徴がある.仕掛時計みたいな感じで,天使のラッパが上下に動いたりとかするのだ.

ところでこのオルガンがある教会や展望ビルは北側のオリヴァ地区にあるのだが,実はもともとこっちに行く予定はなかった.それが,朝9時のバスでカリーニングラードに行こうとしたら,満席だとか言われて置いてかれて,次のバスが出る15時まで待つはめになったので,行ってみた次第である.

というかそもそも,満席だとか言われないように前日に切符を買おうと思ったのに,窓口の人は「バスで直接買え」の一点張りだったのだ.しかしながら当日バスのところに行ってみると,ほとんどの人はどこかで切符を買ってきており,もちろん切符のある人から先に乗せてもらって,最後に余った俺は乗れなかったのである.どういうことかさっぱりわからない.15時のバスもほとんどの人が切符を既に持っていたけど,こっちは座席がちょっと余っていたので乗ることができた.やれやれ.



なぞなぞの類が好きな人はケーニヒスベルグという名前のほうが聞いたことあるかもしんない.

ポジション的にはグダンスクと似た,「プロイセン系の歴史ある町で,戦争でかなり破壊されたやつ」枠だと思うのだが,現在のグダンスクの観光都市っぷりとの落差がものすごい.まさに旧ソ連の地方都市という風情.いやカリーニングラードでも大聖堂だとか砦や城門だとかいろいろ再建したりしてるのだが,どうにももっともらしさが足りない.それぞれの地区で場当たり的にやっていて,統一的なプランが感じられないというか,すぐ横にソ連式集合住宅が並んでるので浮くというか.そこにあった建物をできるだけ再現するのではなく,なんか「それっぽい建物」を建てている場合すらあるようだ.

市の中心にある「ソ連の家」という変なビルも気になる.未完成だそうだがどう見ても廃ビルだ.あれもなんとか活用できぬものなのだろうか.旧共産圏のブルータリズム建築って現代ではもはや観光名所だと思う.ここのは地盤的にやばいという話だが,どう補強しても無理なんかな.

というか,後日,たまたま会ったドイツ人に「君はカリーニングラードにどれくらいいたの? 2泊? ああ,そんなもんで十分だよね」と言われたのが忘れられないのだ.

まあ衣食足りてナントカというやつで,長い低迷期に文化にまでリソースをさくのは無理だったんだろうな.現代では経済や治安についてはかなり改善されたそうで,よくわかってない日本人がふらふら歩いてても別に危ないようなことはなくなった.宿泊や食事の選択肢もそれなりにあるし,滞在するにあたって必要なものはだいたいある.観光客にとっての問題は,現在ここは完全にロシアなので英語の通じない人のほうが多いことである.

せめてネットで情報を得ようとSIMカードを買おうとしたら,一軒目の店員には「英語話せないです」と塩対応で返された.隣の店に行ったら,今度の店員はスマートフォンのgoogle翻訳を見せて入力しろなどと言ってくる.つまり,この店員は少なくとも外人でもコミュニケーションを取ろうという意志があるということだ.そこで後者の店員になんとかSIMカードを買いたいことを伝え,無事に購入することができたのだった.



……ここにわざわざ宿泊した日本人はほとんどいないのでは?

カリーニングラードのちょっと北,海沿いにある町.いちおう保養地であり,海岸は海水浴場になっていて,レストランなども並んでいる.保養所的なものもあるようだった.ただ,かつては大型リゾートホテルか何かだったらしい廃ビルもけっこうあり,現在では当初の期待ほどの保養地ではないようだ.近隣の人が主に遊びに来ているらしい.

中心部にほんの少しだけきれいなトラディショナル町並みに整備された通りがあって,雰囲気はわりと悪くない.海岸も家族連れとかがのんびり遊んでる感じだし,のどかな町である.

ところで,この町はなんでだか知らないが妙に猫推しだった.まず,中心部の通りにやたらめったら猫がいる.明らかに世話されてる猫で,毛並みはいいし人から全く逃げない.触れるし写真も撮り放題だ.なにより笑ったのは,通りに観光客向けのカリカリ自販機が置いてあったことである.こんなものを見たのは世界でここだけだ.

町の飾りや像なんかも妙に猫モチーフのものが多いし,なんでこんなに猫推しなのかよくわからない.猫グッズ博物館もあるけど,猫博物館があるから猫推しなのか,それとも猫推しの町だから猫博物館ができたのか.

泊まったゲストハウスにも,かわいい猫が三匹もいた.堂々と部屋に入ってきてくつろぐやつさえ出る始末.口コミ評価をおまけするレベルだ.



カリーニングラード近辺から北東には砂州が続いている.わりとでかい砂州なので,道路もあるし集落もある.そしてリトアニアとの境界には国境検問所までちゃんとある.というわけでここを通ってリトアニアに行ってみた.

なんだけど,ゼレノグラーツクの人達から,「バスは朝しかないよ」「国境を越えるタクシーはたぶんほとんど見つからないよ」とか聞いたにもかかわらず,「まあ国境付近まで行けば,何かしらローカルな交通機関があるだろ,タクシーだって全然ないってこともないだろうし」とか適当な考えで国境付近まで行ってみたところ,全然なんともならなくてえらい目にあった.

まず「バスが朝1本しかない」というのは,「朝と晩の2本ある」とか言う人もいたのでよけい混乱した.これはつまり「時期によっては2本のときもある」というのが正解らしく,俺が行った日は朝しかなかったようである.地元の人もあまり正確に把握してないようだ.

さらに「タクシーはほとんどない」というのはマジである.なにしろロシア人がシェンゲン圏に入るビザを取るのは大変だから.何台かのタクシーに確認してみたが,国境を越えてくれる人はいなかった.

というか国境に一番近いモルスコエという村まで行ってみてわかったのは,そもそもこの国境を越える人はあまりいないということである.そりゃローカルバスやタクシーなんかないわけだ.じっさいこのモルスコエはどっちかと言うと別荘地で,普通の意味での集落とは感じが違い,人も車もあまりいない.

……というような実態を理解したのは現地についてからなので,国境の直前まで来ておいてそれ以上進めなくなった状況だ(朝のバスはとっくに行っている).考えられる選択肢としては

(1)一旦カリーニングラードまで戻り,一泊して翌朝バスに乗る
(2)モルスコエ村でどこかに泊まれないか探す
(3)あとちょっとなので歩いて国境を越え,リトアニア領でタクシーでも探す

あたりだが,この時点でもうロシアルーブリの現金があまりなかったので,(1)はできればやりたくない(カードでタクシーかバスに乗る,あるいはユーロ現金をそのへんの売店の人にちょっとアレしてもらえば不可能ではない)し,なんか一旦70キロ以上戻るのもいかにもばかばかしい.(2)も,確実性に欠けるわりに,泊まれなかった場合のリスクが大きい(日が暮れてからどこかに戻る方法がない).(3)はできそうだが,なんとこの国境は歩いては越えられないのである.理由は知らない.

結局どうしたかというとヒッチハイクだ.EUナンバーで北に行く車に必死に声をかけて,国境を越えるまで乗せてもらった(ほとんどはロシアナンバーで,割合としてかなり少ないので本当に必死だった.数時間で済んでよかった).我ながらいかがなものかと思う.乗せてくれたドイツの人本当にありがとう.

というわけで,最終的にはなんとかリトアニアに入り,予約しておいた宿泊先に辿りつけたのだった.もうだいぶ遅かったが,レストランに行ってスープとパンとビールで簡単に食事をしたら,苦労したぶんこれがもう本当にうまかったことである.

もし検索で来た人がいたら,「クルシュ砂州の国境を越える場合,基本的にはカリーニングラード−クライペダの長距離バスに乗るしかないので,このバスの時間を基準に行動する」ということをよく覚えておいてほしい(2019年夏現在).確かにロシアでは掲示と実態が違うことはよくあるが,これは本当に方法がない.なにしろ国境を行き来する人自体が少ないのだから.



ところで,モルスコエでは,集落とその3キロぐらい手前の二箇所にバス停がある.なぜ手前にバス停があるかというと,ここから砂の山のよく見えるビューポイントや海岸に行けるようになっているからだ.タクシーもほぼこっちにいるし,おみやげ屋や売店の類もほとんどこっちにある.集落には雑貨店が1軒あるだけのようだ.さらに,どうも集落から観光ポイントへ直接は行けないようである.

で俺はまあ,一帯の観光は国境を越えてからでいいかと思っていたのに,間違えて手前のほうで降りてしまった.なにしろほとんどの人が降りるので.

しょうがないからとりあえずこっちで砂の山だとかを見物した(まだこの時点では午前中で,気持ちにも余裕があったのだ).ここで見れるものは要するに巨大な山になった砂浜であるが,あまり見れない景色であることは確かだ.問題は,この日は移動日だったので,荷物を全部持ったままだったということである.巨大な「山」を見るのだから,登り坂になるわけだし.

無駄に体力を消耗してしまい,その後交通手段を求めて右往左往する際にも大変苦労した.その後ビューポイントバス停と集落の間を歩いて行ったり来たりしたし.本来は,設備の整ったニダの町(リトアニア側)でのんびり滞在しながらちょっと砂州でも見物する予定だったのに,どうしてこうなった.ほんと人の話はちゃんと聞こう.

まあでもアレだ,国境を越えたのはかなり遅い時間で,ニダであまり滞在する余裕もなくなっていたので,結果としてはロシア側で観光しておいてよかったのかもしれない.



今回カリーニングラード地方に入国するのには,ここでも7月から始まった電子ビザ制度を使ってみた.極東でも去年からやってたやつである.本来ロシアに観光に行くにはビザの取得が超めんどいのだが,この制度を使うとwebで申請して数日後にはビザが取れ,印刷したものを持ってくだけですむので大変楽である.

ただし,

  • 8日までしか滞在できない
  • 別の地方に移動することはできない

という二大制限がある.今回はバルト海沿岸旅行の途中でカリーニングラード地方に立ち寄るだけだったので,まさにぴったりだった.というかこの制度を使ってみることを軸として旅程を決めた感すらある.

ところで,ネットで情報を探してると,「ロシアの電子ビザは入国と出国が同じポイントじゃないと駄目」という記述を見ることがあるが,これは正確ではない.正確には「同じ地方じゃないと駄目」であり,国境は別でも問題ないのだ.今回俺はポーランドからグロノヴォ−マモノヴォ国境を通ってカリーニングラード地方に入り,モルスコエ−ニダ国境を通ってリトアニアに出ている.国境審査では何も問題は起きなかった.

この誤解が生じやすいのは,おそらくウラジオストクとハバロフスクが別の地方に属するからではないかと思う.なんとなく極東ロシアでくくると同じ地方のような気がするので,ウラジオストク入国ハバロフスク出国というのができそうな気がするが,これは駄目なのだ.ただ,国内を移動する際に電子ビザをチェックすることはないようなので,もしかするとウラジオストク入国→ハバロフスクに移動→ウラジオストクに戻って出国,みたいなのは脱法行為だが可能なのかもしれない.やめたほうがいいと思うけど.

あとネットでは「申請ページに写真を何度アップロードしてもはじかれる」という声もよく目にするが,これはよくわからない.俺がやったときは一発で通った.申請ページのどこだったかをクリックしないと写真の詳細な条件が出ないからだろうか?

【このトピックへのコメント】
  • ワンツーリスト[URL]はじめまして。興味深く読ませていただきました。

    「入国と出国が同じポイント」でないと駄目なのかどうか、という点ですが、
    法律上は「出入国は同一検問所を通ること」と記載されており、厳密には同一地点から入出国しなければなりません。
    詳細は出入国管理法25.17 http://www.consultant.ru/document/cons_doc_LAW_11376/9ec3d7c82e988f2b57aca3f17081844e3121c7d8/ の6段落目に記載があります。

    しかし、【現在のところは】運用上、同一地方内であれば入出国地点が別でも許可されています。

    いつ運用が変更され、弾かれるようになるかはわかりませんので、一応コメントさせていただきます。

    ちなみに、写真については、一部のブラウザでやるとうまくいかないようです。
    (2019-10-08 13:43:47)
  • 海月玲二コメントありがとうございます.あまりロシア語は上手ではないのですが,この6段落めは「同一のチェックポイント」ではなく「入国したのと同一の地方の国境を越えるチェックポイントから出国しなければならない」と読むのではないでしょうか? 「チェックポイント」は複数形ですし.

    これの英訳はhttps://evisa.kdmid.ru/の8項めにある"Foreign citizens should leave the territory of the Russian Federation only through checkpoints of the constituent entity of the Russian Federation which they entered."だと思いますが,これを読んでも「同一のチェックポイント」とは読めないように思います.
    (2019-10-08 19:45:44)
  • 海月玲二いや,強いて言えば,英語のほうはwhichがcheckpointsにかかってると読めなくもないような気もしますね(なんで複数なんだという疑問は残りますが).

    でも,ロシア語のほうは関係代名詞が"который"なので,これが"пункты"にかかっているというのはありえないと思います(そうだったら"которые"になるはず).だからこれは"территории субъекта Российской Федерации"にかかることになります.

    むしろ,「別のチェックポイントが通れなかった」という事例のほうが,運用上の問題が発生してるんじゃないかという気もします.いずれにせよロシア政府と役人のやることなので,そんなきっちりしてるわけではないのかもしれませんが…….

    ちなみに俺のときは,いちおうマモノヴォの審査官に「この電子ビザでモルスコエからニダに出国できるのか」と確認したところ,「そのままロシア領に戻らないなら問題ない」と言われました.
    (2019-10-09 23:01:06)