久しぶりに帰った東京だが、まだまだ寒い風が吹いている。今週は東京、高松、京都と巡ってきたのだが、我々の研修ツアーは、良くも悪くもなぜか伝説となる出来事に一度は出会う。「出会う」と言うより「やらかす」の方が正確なのかもしれないが、今回もご他聞に漏れずそのハプニングは起こった。

場所は高松。この日の研修は時間の合間にDr招聘勉強会があり、通常より遅く終了する予定だった。したがって飛行機の最終便に間に合わないため後泊とし、翌日京都へ移動するスケジュールにしていた。なので、この日の研修さえ終われば、精神的にも肉体的にも余裕が出てホッとできるのである。

さて、研修も無事終わり、翌日は移動日とあって、ペアを組んでいる同僚とプチ打ち上げを兼ねてちょっといい店に食事に行こうという事になった。彼の宿泊先であるワシントンプラザに寄って荷物を預け、いざ出陣。

まずはタクシーの運転手に聞いていた鮨屋を目指す。そこの利用客をよく送り迎えしていると言う。5分ほど歩いてたどり着いて見ると、かなりシャレた店構えの上、周りは黒塀で飾られている。明らかに接待用の鮨屋然としていたので直ちに却下。

元の場所まで戻り、瓦町の大衆酒場の並ぶ横丁へ。2、30mも歩くと一軒の魚料理の店が目に飛び込んできた。安くてウマいが騒がしい店よりも、こじんまりとした落ち着ける店を好む私には、まさにもってこいの店である。同僚も了解し、さっそく中へ。

店内はカウンター中心で座敷は奥に一部屋というレイアウト。入口でなぜかブランドもののスリッパに履き替え、案内されたカウンター席へ陣取った。隣の席には、ここの主人とおぼしき人が携帯で何やら話している。どうやら株の話らしい。カウンター内には料理人が一人、なんと白いYシャツに蝶タイ姿で立っている! 和風の店なのに何とも言えない違和感が・・・。

ビールを飲みつつ、お勧めのカワハギの刺身を注文すると、蝶タイの料理人はおもむろに背後の水槽から手づかみでカワハギを取り上げ、奥へ去って行った。しばらくすると見事な薄造りと肝がやってきた。いやぁ、ウマい! 例によって、こりゃ日本酒じゃなけりゃ失礼だとばかりに酒の銘柄を訊く。

酒は燗でも冷でも一種類、久保田の百寿だと言う。ちょっとガッカリだったが、寒かったので2合徳利のぬる燗を頼み、肝醤油にくぐらせたカワハギを一切れずつ丁寧にいただく。ああ日本人に生まれて良かったな〜としみじみ感謝する瞬間である。やがて主人の電話も終わり、彼の大好きだと言う株の話でひとしきり盛り上がる。

カワハギも終盤に近づいた頃、暖かい物が欲しくなり湯豆腐を一人前注文。目の前の石囲いの炉に炭火が置かれ、野菜やキノコと共に土鍋で湯豆腐が作られ小分けされる。ぬる燗はすでに2本目が空こうとしていた。我々はさらにお勧めのアジの煮付けとタタキを一匹ずつ追加。アジの煮付けなんて初めて食べたが、まろやかな味付けで美味だった。

飛び込みで入った店だったが、希望通りの落ち着いた雰囲気と美味に出会え、いい夜を満喫できた・・・そう、勘定を聞くまでは。

料理4品、生ビール2杯、燗酒3本、焼酎3杯で〆てお勘定26000円也! どうみても料理一品4千円以上、酒類も千円以上という計算になる。おいおい、そりゃウマいだろうよ! 一見さん価格だとしても、最初に却下した鮨屋でさえそこまでの勘定にはなるまい。それにここは銀座や赤坂なんかじゃない、四国の高松だぜ? 前日の晩に行った居酒屋じゃ5人で15000円だったのに!

というわけで、図らずも「やってもうた! 高松伝説」を作ってしまい失意の我々だったが、翌日移動した京都では、ネットで予約していた町屋造りの居酒屋「鬼河童」に行った。ここはお勧め! 雰囲気、味、値段とも申し分なく、同僚にも今後通いたい店とまで言わしめ、何とか高松のカタキを京都で討ったのだった。