同僚といつもの店で晩飯を兼ねて飲んでいた時の事だった。

どうもこの近くに今はやりの「メイド××」なるものがあるらしい。彼はそこに通い続け、一杯飲む毎に押されるスタンプカードがもうじき満杯になって、階級が二等兵から一等兵に昇格すると言う。最高位は将軍だそうだ。アホか?

秋葉原のメイド喫茶は有名だが、ここ代々木ではアルコールを出すパブで、メイド服の女性が「お疲れ様で〜す」と迎えてくれ、しかも店内には数え切れないほどのガンダム系プラモデルやフィギュアが所狭しと並んでいると言う。

ほろ酔いついでの社会見学とばかりに行ってみた。20人までは入れそうもない狭い店内には、月曜日だというのに男女とり混ぜて8割方の客がいた。同僚曰く、会社や日常生活では決してカミングアウトできないアニメオタク達がプラモデル片手に静かに語り合ったり、心を解放する場所として通って来ているのだと言う。

この日はテーブル席に女性グループが5人、もう一つには男性4人、我々は残り一つのテーブル席に座った。6人ほど座れるカウンターは一人で来る常連客のための席で、そこへ座れるまでには超えなければならない高いハードルがあるそうな。要するにオタクの中のオタク、通のみが座れる席なんだそうだ。

早速、SFチックなメイド姿のやたら足の太い女性がおしぼりを持ってきた。ちっとも「萌え」ないが、お約束で「メイドさんなの?」と訊くと、「いえ〜、メイドロイドなんですぅ〜」。思わずひっぱたきそうになるのをかろうじて堪えつつ「メイドロイドだったら、ツネっても痛くないんだよね」と手を伸ばそうとしたら同僚に止められた。「ここはお触りも写真撮影も厳禁なんですよ!」だと。別にハナから触りたくもなかったんだが。

注文した焼酎のロックを飲みながら周りを見ると、若いオタク顔の店長が、一様に毛糸の帽子をかぶったカジュアル姿の若いグループとアニメソングバンドの話で盛り上がっている。一方で常連専用のカウンター席では、対照的に客5人全員がネクタイにスーツ姿。顔見知りらしい二人が静かに語り合っている一方で、一人でしげしげとアニメビデオやフィギュアに見入っている客もいる。「お前らイイ歳こいてバッカじゃないの?!」と言いたいのをムリヤリ飲み込んだのは言うまでもない。

「彼らはコミュニケーション・スキルがありませんので、くれぐれも睨んだり、大声を出さないようにしてくださいね!」と再び同僚に諭された。ここに来て、ついに自分の中に言い知れぬフラストレーションが溜まっているのがわかった。そう、ここは私のような人間が足を踏み入れてはいけない場所だったのだ。日陰の庭にひまわりは似合わない。

チャージ500円と焼酎代500円の計1000円で想像を超えた世界を見られたと思えば、案外安いとも思える。だが、これが最初で最後の見納め、単に恐いもの見たさだけの愚行だったと後悔するのにさほど時間は要しなかった。