服用患者の転落死などの異常行動が問題視されている、インフルエンザウイルス感染症治療薬「タミフル」だが、被害患者家族達が訴えているこの薬剤の副作用かどうかの判定には難しいものがある。

その大きな要因は、この疾患の病態による。ウイルスは発熱等の症状発現後48時間程度で血液を介して脳細胞に進入し、生理活性物質(サイトカイン)異常を引き起こし、異常行動などの症状を引き起こす。これを「インフルエンザ脳症」と呼ぶが、タミフルの服用時期も症状発現から48時間以内とされているため、どちらの理由によるものかが極めて不明瞭なのである。

厚生労働省研究班は、小学生を中心としたタミフル服用患者と非服用患者との間に異常行動発現に差が見られなかったという報告をしている。最近報道されているケースはいずれも10代の患者であるため、今後さらに18歳までの患者について再調査を行い、夏には発表するとしている。

この問題にはもう一つ、隠れた部分がある。タミフルは2001年に国内発売されたが、そもそもこのA、B型両方に効く抗インフルエンザウイルス薬は、2000年に国内発売された吸入剤が第一号だったのである。これが発売された時は、ゴールデンタイムのニュースに何回も取り上げられたほど期待されていた。

インフルエンザウイルスは気道上皮細胞で増殖するので、そこへ薬剤が到達すれば良い。その方法には2つあり、タミフルのような内服による全身的投薬と吸入による局所的投薬である。

全身的投薬では、薬剤は血液に運ばれ、全身を循環し増殖部位に到達する。同時に脳にも到達する。もし薬剤が神経系に作用を及ぼすとしたら、神経症状=副作用が発現するだろう。発病初期は気道にさえ薬剤が到達すれば良いのだから、その意味では内服薬よりダイレクトに届く吸入薬の方が理にかなっていると言えよう。今までのところ、この吸入薬には異常行動の副作用報告はないという。

だが、こういった分野の感染症治療薬は、その売上げには季節性と流行の変動による影響が大きく、企業にとっては不安定要素となる。そのため、この吸入薬のメーカーは販売活動を世界的に終息させたと聞いた。最近になって国の要請により復活させているようだが、もはやこの吸入薬はほとんど忘れられ、今ではインフルエンザウイルス感染症の特効薬と言えば内服薬の「タミフル」を指すようになってしまった。

マスコミや医師は、少なくとも10代までの患者には、適切な治療薬の選択肢を示すべきだと思うが・・・。

・・・書き終わった途端、目の前の携帯が鳴った。カミさんからで、函館の息子がインフルエンザになったと言う。ワ〜オッ! なんという偶然だろうか!

カミさん、すかさず「タミフルは飲ませてませんよね?」と寮の先生に訊いたそうな。
先生の返事は「吸入剤があるという事で、それを処方してもらいました」
それを聞いた私、思わず「でかした! それでいい。万一にも寮のベランダから飛ばれたら困るからな(笑)」

そう、これでいいのだ。患者も自分の病気と治療法・治療薬くらいは、少し勉強してでも自らの選択肢を知っておくというのは大事な事である。