家の近くに、都内に何軒か支店を出している居酒屋がある。

ランチタイムにはラーメンや手延べ餃子などを中心としたメニューがあり、その中でも熟成白味噌と国産小麦粉麺を使った「北海味噌ラーメン」は秀逸で、特に上に盛られたモヤシや玉ねぎ、ニラなどの野菜や豚肉と共に醸し出される味のハーモニーは抜群なのである。七味と炒りゴマを多めにかけていただくのが私のいつもの流儀である。

日頃から贔屓にしている「なかむら」でさえ、こと味噌ラーメンだけはここに一歩譲るだろう。見事に札幌風味噌ラーメンと言うべき完成度なのだ。値段は780円とチトお高いものの、どこにもない食後の満足感を味わいたくて時々足を向けるのである。

私が訪れるのは休日の昼下がりと決めている。平日にはできない事だが、雑誌でも眺めながらゆったりと食べたいからである。明るく広めのスペースに雑誌を左にどんぶりを右にセットして、時間を気にしないペースで食べたいのである。

ところが、ひとつ困った事があるのだ。

この店の中心は大き目のテーブル席で10卓以上あり、優に40人以上は座れる広さがある。ところが一人で入ると、どんなに空いていようが、荷物やバッグを抱えていようが、女性スタッフは例外なく「お一人様ですか〜、カウンターへどうぞ〜!」と言い放ち、店の隅の5〜6人程が座れる薄暗いカウンター席を強要するのである。

昼飯時の込み合う時間帯ならそれも当然だが、テーブル席にほとんど客がいない時でも、隅っこのカウンター席だけは3〜4人がひしめいているという事がままあるのだ。私は今日もクリーニング帰りにトートバッグに雑誌を入れ、この店の扉をくぐった。

だが、その時は幸運にもカウンター席がほぼ満席状態だったので、さすがの女性スタッフもいつもの声は出せず、4人掛けのテーブル席に座れた。と言っても、この時点で残りのテーブル席の客はゼロ。つまり店の客はカウンターに座っている4人と私だけだった。

やがてカウンター席の一人が出て行ったのと同時に、一人の年配の男性客が入ってきた。すかさず女性スタッフの「カウンター席へどうぞ〜!」の声。だが、それが耳に止まらなかったのか、彼はテーブル席の方へ向かいかけた。途端、「お客様〜! カウンターへ〜!」とさらに大きな声。さすがに気づいた彼、昼なお薄暗いカウンターへ踵を返した。

私の言いたい事はもう察しがつくだろう。

客を効率よく配置して座らせるのは飲食店の基本だというのは良く分かる。女性スタッフもそれをマニュアルとして十分心得ているのだろうが、それは繁忙期の対処であって、ガラガラの時まで無理やり通すのはいかがなものだろうか? 

誰だってゆったりと食事したいのである。だが、混雑時にテーブル席を一人が独占するのは忍びない、もちろん相席も覚悟の上だし、グループで来る客にテーブル席を優先するのも納得できる。それは十分分かった上で言っているのである。

だからこそ、せめて空いている時ぐらいはお一人様でも好きな席に座らせたらどうだろう。こんな事は、一度でもマニュアル抜きで客の気持ちになってみれば、すぐにわかると思うのだが。臨機応変、それが客商売のホスピタリティというモンだろうに。

それさえなければ、この店にはもっと足繁く通っていただろうなと思う。