出雲眞知子
8月中旬の、ネットに接続していなかった期間のうちの一部は、学生のゼミ合宿に付き合っていた。ゼミ合宿といっても勉強はなしで、要約すれば、温泉とバーベキューと花火とソフトクリームとドライブ。

ここ数年の間でも、大学生の気質には変化が見られて、わたしが受ける印象では、まじめでお行儀がよくなってきている。酒を飲みすぎることもなく、論じ合うこともなく、穏やかで和やかな合宿だった。

出かける前からネット上であれこれ計画が進み、温泉がいい、できれば露天風呂があるところ、という希望が出ると、それに該当する貸し別荘を誰かがネットで検索してくる。他のだれかがソフトクリーム食べたーい、というと、また別の誰かがウェブで検索してきて、こういう店がしっかりリストアップされている。そんな具合。

で、その黒米ソフト(さきほどのウェブページの下の方にある)、なかなか好評だった。わたしは、ソフトは一口味見させてもらうだけにしたのだが、それとは別に、店頭にサンプルで出ていたセットの料理(秋バージョンが、ウェブページの中ほどにある)の中の付け合せの一品、黒米豆腐に心弾かれた。

「これ、単品のメニューはありませんか?」と店の人に聞いてみたのだが、やはりないと言う。が、店の人は、「その道をちょっと上がって行ったところにある、大黒屋さんにあるから、行ってみたら。」と教えてくれた。

教えられたとおりに行ってみると、確かに大黒屋という店があったのだが、もうちょっと、何かこう、名産の土産を売る老舗、みたいな店構えを想像していたのに、ただの食料品店。店頭に量り売りの豆がいろいろあるほかは、油や調味料、洗剤などが、棚に並べられているだけで、どこにも豆腐らしきものは見当たらない。

店主とおぼしき人が奥から出てきたので、おそるおそる「くろごめ豆腐が、こちらにあると聞いてきたのですが」と聞いてみると、間髪を入れず「くろまい豆腐ですね。ございます。」と言って、こちらが間違いを恥ずかしがる暇もなく、また隣の作業場のようなところに引っ込んでしまう。

50代後半くらいか、愛想のいい、しかしどこか毅然とした店主で、しばらくして戻ってくると、手には透明の密封ケースに入った黒米豆腐が一丁。
「それ、いただいて行きます。」同行した学生たちも欲しい、ということで、「全部で4丁ください。」

すると、「持ち帰りにどれくらいかかりますか?」と聞かれ、「今日の夜になります。」と答えると、またすっと奥に引っ込んでしまう。しばらくして、きちんとガムテープで封をされた白い発泡スチロールのケースを持って戻ってきた。
「氷を入れてありますから、持ちますよ。」

「ここで作っているのですか?」と聞くと、「そうです。黒米豆腐と、湯葉を。」そうか、湯葉か、それも欲しかったな、と内心思うが、すでに梱包されたケースを抱えて、追加するのも気が引けるので、次の機会に、と思う。

「販売はしていなくて、このあたりの旅館に出してるんですよ。」
なるほど、だから、密封ケースには、何の模様も文字もない無地なわけだ。

その日遅く帰宅して、さっそく黒米豆腐を食べてみる。見た目胡麻豆腐のイメージなのだが、味はずっと控えめで、ほんのりあまく、後味もいい。食感もなめらかで、これはいいものを見つけた、と思った。

大黒屋についての情報がネットに出ていないか、と調べてみたら、googleではヒットしなかったが、gooでいくつか見つける。例えば、ここの、<温泉場>みやげのところ。

さらに、ここに、「昼、修善寺の大黒屋に湯葉代金をあさひダイレクトで振り込む。」、またこちらには、「午後、修善寺の大黒屋から電話。18日に送った注文のFAXを見落としていたとのこと。」という記述を見つける。(だから、日記は情報源として役に立つよねえ。)

湯葉や黒米豆腐をFAXで注文すると、送ってもらえるのかもしれない。どうするかな。まあ、また修善寺に行く楽しみにとっておいてもいいけれど。
【このトピックへのコメント】
  • きよぽん大黒屋さんの件。
    1年近く前の日記についてですから、もうご存知かも知れませんが、送ってくれますよ。クール宅急便で。
    お豆腐や生湯葉、胡麻豆腐(作る時と作らない時あり)など、詰め合わせで時々送ってもらています。
    お中元にしたり(受取人に前もって知らせなければいけないけど...生ものだから)、お使い物にもしています。
    特に生湯葉は、受けがいいです。
    だっておいしいんだもの。
    豆乳の濃度が違うから(クリーミーです)、普通の豆腐もおいしい!!!
    確か京都の料亭にも卸してるのではないかと思います。
    (2005-07-27 22:08:16)
もう何度目だろう、いつだって、この人にはとびきり感動的に驚かされる。

しかも不思議と、わたしが極度に落ち込んでいる時に、まるで計ったようなタイミングで、喜ばせてくれる。もちろん偶然も重なっているのだが。

夏の今の時期はずっと、大学の事務方の業務が縮小されていて、外部からの郵便物は、週2回しか教員のメールボックスに届けられない。
そんな具合だから、こちらもメールボックスまで郵便を見に行く習慣がなくなり、1週間ぐらいそのまんま、なんってことになったりする。

で、今日、しばらくぶりにメールボックスを確認して、同じ人からまとめて5枚の絵葉書を受け取った。それぞれに違う土地の違う日付の消印のついた、違う切手の貼られた違う絵柄の絵葉書。

消印の日付は読み取りにくいので、短いことばで旅程の書かれた文面を頼りに、その5枚を時間順に並べてみる。まるでパズルを解くように。

おそらくこれで間違いあるまい、という順番が決まると、今度は、1枚目から順に絵葉書を裏返して、絵やら風景やらをひとつひとつ眺めていく。

旅の空気がそっくりここまで伝わってくる。