海月玲二
2023-03-01(水)

ベトン

ペンカランフールーから国境を越えて、タイ側にある最初の町がベトンだ。

この町はいわゆる陸の孤島である。タイの最寄りの町からは車で一時間以上山を越えないと来れない。たぶんマレーシアから来たほうがまだマシだ。
そのわりに、そこそこちゃんと町なのが不思議である。どうやって経済が成立しているんだろうか。マレーシアからの観光客に依存しているのか、特産の鶏肉とかをバンコクに売るのは意外ともうかるのか。
というかそもそもなんでこんなところに町があるんだろう。タイ北部にある中華系の落人村みたいなもんだろうか。

それとこの町は中華色が強く、文化的にも独特であるとよく言われるようだ。でも、俺としてはここに来たときにあんまりそういう感じを受けなかった。なんでかというとイポー中心街と少し似ていたからである。食文化的にも共通点があると思う。
そして帰るとき、こんどは北に向かってタイ国内を進んでみたところ、ヤラーとかの周辺の町と比べたら確かにだいぶ雰囲気が違うな、と納得した。ガチムスリムの服装の人がたくさんいるとか、中国語をあまり見かけないとか、そういうことである。
つまりここは「タイ南部としては異常なぐらい」中華色が強い、ということなんだろうか。

ところで、ここで観光するというと基本的には食べ歩きである。いろいろあって面白いんだが、まあマレーシア人以外わざわざここまで来ないかなあ。あと腹は一人ひとつしかないわけで、こういうとき一人は不便だ。
あとはおねえちゃんと卡拉OKするとかいう向きも多いそうだが。確かに、カラオケ屋とマッサージ屋は明らかにたくさんある。帰りのミニバンで乗り合わせた日本人の若者が、なんか現地の女の子と飲みに行った武勇伝を話していた。


ハジャイはタイ南部の中心都市だが、日本人観光客的にはあんまりわざわざここで降りたりはしないかも。でも中心都市なので、でかいビルも並んでるしそれなりに設備も整った大都会だ。
……なんだけど、どうもなんだか妙に人が少ない。シャッターを閉めてる店も目につくし、これはやはりコロナウイルス騒ぎで観光客激減とかそういう影響なんだろうか。
……と思いながら、中心から少しはなれたショッピングセンター地区に行ってみると、けっこう人がたくさんいるのでびっくりした。どこからこんなに出てきたんだ。
いわゆる都心部ドーナツ化現象ということでもあるんかな。

ショッピングセンター「地区」というのはどういう意味かというと、でかいショッピングセンターがせまい範囲に3つもあるという意味だ。しかもちゃんと住み分けがあっておもしろい。
地元民が多め、売ってる服や雑貨が安めでターゲット年齢層低めの「ナイトマーケット」と、ちょっと高めで観光客向け商品が多めになっている「バザール」、ブランド品も並んでいるちゃんとした「モール」の3つだ。まあ俺はどうせ買わないで見てるだけなので何でもいいんだが。迷惑な客だ。
なお食事コーナーは大差ない。屋台で売ってそうなものを小綺麗に並べた感じ。

あと都心部でも、人気の飲食店にはちゃんと人がたくさんいた。ちなみに、ここもわりと中華系の勢力が強いので、有名店は中華風が多い。俺も朝から点心屋に行って肉骨茶頼んだりしてご満悦だ。
日本人は行かないだろうが、日本食の店もけっこうあった。いやまあ寿司とかおやつとかはそれなりにタイ風になったやつだが、日本食がジャンルとしてそれなりに需要はあるらしい。単なるイメージとしで日本語を使ってる店もかなりあって意外だった。
タイ南部でも日系企業の人達がそれなりにがんばってきたんかね。やよい軒とかヤマザキパンの店まであった。

ところで、実際今はそれなりに観光客がいるようではあった。明らかにタイ語を話せない人とか、有名飲食店にグループでやって来て記念写真を撮る人とかをときどき目にしたのだ。
でもシャッターを降ろしてる店が多かったりするのは「まだまだこんなもんでは足りない」という話なのか、3年の間に事業が継続できなくなってしまった人がたくさんいるのか。
去年ホーチミンシティに行ったときも思ったけど、初めて来る町は2019年以前どうだったかわからないので、今どれくらい変なのかわからないな。もしかして単にのどかな雰囲気の町なんだったり、とかはないか。


タイ南部とマレーシア北部をつなぐ国境はあと2つあって、(マイナー国境はあと何箇所かあるようだ。) 今回は西側の国境を通ってマレーシアに戻った。
3つの中で、この国境はたぶん一番簡単である。なんと国際列車があり、列車に乗ってるだけでそのまま越えられるのだ。ペンカランフールーのことを考えるとマジ雲泥の差。
ちなみに一番東のスンガイコロク国境もけっこうめんどうらしい。そもそもそこまで行くのがかなり面倒。

ただ、国際列車と言っても、国境を越えたすぐのところで終点で、そこからはマレーシアの別の列車に乗りかえないといけない。バンコクからクアラルンプールに直接行ける列車みたいなものは、かつてあったかどうかよくわからんが、少なくとも2023年3月現在そういうものは存在しない。

まあ、超長距離複数国移動列車というのはロマンがあるけども、警備・管理する側からするとやってられん面はあるだろう。
実を言うと、現在の国際列車もつい最近再開したばかりである。 昨年末に爆弾テロがあって止まっていたのだ。
というわけで、少なくとも動いてることに感謝しつつ、ハジャイからパダンベサール駅まで乗る。そしてパダンベサール駅で時計を1時間進め、さらに1時間ばかり待って次のバタワース行きとかに乗るのだ。
今のところ、パダンベサール→バタワースはタイバーツで払うと117THBだった。出国時残金使い切りチャレンジをしたい人むけ情報。売店のジュースとかもタイバーツで払えるぞ。

スケジュール的には、バンコクから来る列車が8時50分にハジャイを通るので、そこから乗った。というか、駅に行ってみると客車が1両だけ待ってるので何かと思ったら、ハジャイから乗る連中はここに乗り、バンコクからやってきた寝台列車に増結するシステムだった。
バンコクから直接パダンベサール国境を越える列車は、今はこの一本しかないはずだ。
ハジャイから行きたいだけなら、7時半と14時にもハジャイ〜パダンベサール間を往復するだけの列車というのがあるので、こっちでもいい。でもどっちも時間が微妙なんだよな……

さらに微妙なトラップの話。「パダンベサール駅」というのは実は二つ存在する。タイ寄りのやつはまだ国境の手前であって、マレーシアに行きたい場合ここで降りても無意味である。よくわかってない観光客が降りそうになって、まわりの人に止められるのがこの路線あるあるだ。


ペナン島は、大陸に面した側が主な町になっていて、山を越えた反対側は建物も少ない田舎のようである。香港島にちょっと似た構造だ。そして町側の部分の中心部をジョージタウンと呼ぶらしい。

ペナン島は島だけども橋が2本あって、普通にバスとかで来れる。ただ、対岸のバタワース鉄道駅のすぐそばから渡し船も出ていて、せっかくなので乗ってみるのもいいと思う。現在の注意点は2つある。

・コロナ関係で減便が継続しているようで、昼間は1時間1本しかない
・バタワース鉄道駅からフェリー乗り場までに両替所がない

特に両替所がないというのが観光客的には微妙に不便で、パダンベサールからそのまま来てマレーシアリンギットを持っていないという可能性がある。しかし渡し船の切符(1.20RM)は現金でしか買えないのだ。いちばん簡単なのは、パダンベサール駅でジュースとかをタイバーツで買っておつりをマレーシアリンギットで貰っておくことだと思う。もちろん、ジョージタウンに入りさえすれば普通に両替所があるのでその後は大丈夫。

船で入ってくると、町並みを見て一瞬「エッ西洋風?」みたいになるけど気のせいだ。いや気のせいってことはないが、コロニアル建築が残っているのはすみっこのごく一部で、基本的には中華長屋というかショップハウス形式の町並みである。地区ごとの多数派の文化によって飾りや雰囲気は変わるけど。西洋風のでかい建物は見栄えがするので、普通の観光客だけでなく、結婚式の記念写真を撮っている人達がたくさんいた。あんなにいては順番待ちとか大変だろうなあ。

さてジョージタウンはこれまで通った町と違って大観光地なので、初めて来た町だけどはっきりわかる。ここはコロナウイルス騒ぎから復旧している途中なのだ。交通手段、宿泊施設、飲食店など一旦なくなっていたのを整備が進められている。求人広告もそこらじゅうに貼ってあった。「レストランスタッフ、コックとウエイターと掃除係と会計係とフロアマネージャー募集」みたいな、じゃあ今は誰もいねえのかよみたいな広告もよく見かけたほど。

あと「中心部は主に観光業のみ、ふつうの市民生活はもうちょっと郊外が中心」みたいなタイプの町(京都みたいなやつ)だと、コロナウイルスの影響でドーナツ化現象が進んだんだな、というのも感じる。ハジャイでもそんな気がしたがこっちはさらに顕著だ。中心近くにあるモールは半分以上シャッターがおりてていかにもヤバそうだったのに、3〜4kmはなれたところにあるモールは普通に賑わっていたし、住宅街にある夜市に行ってみたら人でいっぱいだった。

実際、観光客は戻りつつあるようだった。ここだけは、西洋からの観光客らしき人々や日本人観光客でさえもときどき見かけたぐらいだ。また皆が気軽に旅行とか行くようになるとよいと思う。