スペリオール連載の新米熱血検事の事件簿.3巻目.
いや,「熱血」って書いたけど,もうこの3巻目あたりはそれほど熱血でもないんだよなー.1巻目のころはこの作者の前作「演歌の達」の越川達を彷彿するようなキャラクタで描かれていたのだが,2巻,3巻と話が進むにつれて,まあ主人公・潮貞志(うしおただし)が成長してるってのもあるだろうし,そもそも主人公自身30歳(だよな?)ってことで,それなりの落ち着きもあるんだろうし,という感じで,なんつーか無駄なテンションの高さみたいのがどんどん削ぎ落とされていってるんだよな.とはいえそれなりに内に秘めた闘志みたいなものは見え隠れはするのだが,しかしなんつーか,どんどん被疑者と周辺の人間ドラマみたいな雰囲気を呈してきていて,ちょっとなーって感じがしている.
作者側の事情なんてもちろん知らないが,本作を読む限りで見て取れることとしては,「演歌の達」から離脱することがひとつの目標なのだろうな,ということ.1巻最初の潮の上司として登場したのが寺岡というこれまた熱いおっさんで,これが「演歌の達」での富沢本部長とダブってしまうのだ.その辺をはじめとして,最初の方ではどうにも「演歌の達」のカラーを脱却できていないなというのは伺い知れる.で,その辺が主人公・潮の成長とともに徐々に「演歌の達」離れが進んできているのかな,というような見方ができるわけだ.
「演歌の達」が好きだったくろひょうとしては,寂しい気持ちもあるのだが,しかし好きな漫画家さんが自分の筆の幅をひろげてくれるのは嬉しいことだ.
でもなー・・・てのがやっぱりあるんだよな.単なる人間ドラマを描くのならもっとうまい人はほかにたくさん居るわけで.そうでなくて,そういうものを描くのであっても,誰かのマネをするんじゃなくて,高田靖彦にしか描けない,熱くて人情味のある人間ドラマにしてほしいな,とか思うわけですわ.
そんなこんなで,作者自身,迷いもあるんじゃないかなとか勝手に思ってたりします.
前置きが随分長くなったが,この巻では新潟地検に配属となって・・・ってなお話.先輩検事である桑原の応援をする話なんかがメインになるわけだが,んむこのエピソードもどうにも潮がカッコよすぎるというか,アタリを出しすぎるきらいがあるんだよな.うまく行き過ぎちゃうのね.その辺がどうもなーって気がする.のだが,この巻の最後のエピソードでは事件の関係者が自殺をしてしまったりとか,まあそれなりに波乱はある.けしてつまらんマンガになっているわけではない.
ただねー.全体としてツクリがテレビドラマぽい感じになってるんだよな.なんかさ,穿った見方ではあるけど,あたかもテレビドラマ化されることを狙って描いているかのようにもとれちゃう.柴門ふみのマンガなんかにそういうのは多いよな.ヒキとかタメとか,あとある一定期間毎のまとめというか落ち着かせ方みたいな.どうなんだろ?深読みしすぎかな.
あるいは潮の妙なクールさみたいな部分とか,逆にテレビドラマに影響を受けた部分も大きいのかもね.ほれ,最近あったよね.いい男が検事やるドラマ.ねえ.あー,影響されてるだろうなー少なからず.まあそれが悪い方に働いているとは一概にはいえないけどね.
ま,あとは「最初は敵対もしくは嫌っていたが徐々に主人公に魅せられていくキャラクタ」として登場するのが立ち会い事務官の堀部.なんつーかもう,ものすごく典型的な描かれ方ではあるのだが,彼女の視点ってのがこのマンガのキーになっていることもたしかで.
ただね,堀部のセリフにもあるんだけど,潮のやり方で失敗したことがないってのはどんなもんなのかなーってのがね.絶対に人が死なない「め組の大吾」にも共通する気味の悪さみたいなものもある(大吾はそうだから面白いってのもあるんだけど)よな.その辺もきっと,「テレビドラマみたい」とか思っちゃう一因なんだろうな.
まあいろいろ書いたけど,スペでは注目のマンガであることにはかわりないわけで.
ただこの巻に関してはちょっと厳しめに★★☆☆☆.
ま,この続きからまた面白くなるんだけどね.